2015年2月11日水曜日

いい加減な実験と厳密な実験、微差よりも極端

実験って色々で、とても綺麗な条件が必要なものと、いい加減だったり、少々汚かったり、手抜きしても大丈夫な実験がある。

綺麗でないといけないのは、コンタミするとデータが出なかったり質が低下したり、実験自体がおじゃんになるもの。

例えば、細胞培養におけるコンタミ、PCRにおけるDNAのコンタミ、RNA実験におけるRNAのデグラデーション、蛋白や抗体を扱うときの凍結溶解の繰り返しによる蛋白の分解、Silver stainingやSypro Rubyのように高感度染色、これらは要所は綺麗にしなければ、データの質が低下したり、実験自体がおじゃんになる。




これらに対していい加減でいいのは、バッファーの希釈など正確でなくていい。前後10%ズレても問題ないことが多い。だからメスシリンダーなんか使わずに、ビーカーやフラスコでいい。ウェスタンブロッティングでは、銀染色やSyproRubyのように綺麗にやらなくても、最終的にバンドが綺麗なら良い。
それに対して、目で見えないからといっていい加減にやると実験が成立しないようなものも多く、目に見えないだけにコツをつかんで用心が必要な実験も多い。これについては後述する。

綺麗でないといけない実験では、ディスポの器具を使ったり、ガラス器具はよく洗浄してから使う。ピペットもアルコール等で綺麗にし、グローブも頻繁に変える。
汚くていい実験では、ディスポの器具をラフに洗って使い、グローブは少々汚れてもいい。

各実験においては、チェックポイントがある。

RNAの実験やqRT-PCRであれば、RNAの濃度と質の測定。電気泳動でRibosomal RNAを可視化することで質を確認する方法もある。しかしcDNAにしてからは定量が難しい。このためInternal Controlが必要になる。Internal controlには、GAPDH, Beta-actinなどが古くから一般的であるが、これらが一定しない場合も多いため、Internal controlに何を選ぶか、どれくらい希釈して定量するか(Realtime PCRのDynamic Rangeに乗せる)などコツがある。
ライブラリなどが高感度の方法(NanoDrop, Tape station, PicoGreen)などで定量できる場合は必ずしたほうがいい。

ウェスタンでは、サンプルの調製がとても重要だ。みたい蛋白が膜タンパクなら細胞膜は壊す(溶かす)必要があるが、核やDNAは捨てていい。捨てることでノンスペを減らしたり、サンプル中の目的蛋白の濃度を増やせる。逆にみたい蛋白が核タンパクなら細胞質や膜成分を捨てる選択肢もある。核抽出がこれにあたるが、核抽出が不要な場合もある。
免疫沈降は、特定のタンパク質やそれに結合するタンパク質を集める方法であり、これらを濃縮できる。メチル化DNAなどはメチル化結合ドメイン(MBD)を使うことで集めることができる。
これらのタンパク質実験では、どうやってサンプル間を同じ条件にするかがポイントだ。細胞数で揃える、蛋白で揃える、DNAで揃えるなどが主な方法である。細胞数は、播種時に揃えたり、回収時に揃えたりできる。タンパク量は、蛋白定量、ゲルやメンブレンの染色、Loading controlなどを使って揃えることができる。DNA量は、DNAの定量やアガロースゲル電気泳動によって揃えることができる。
より正確に揃えるためには、測定・定量の実験が合目的であるが、状態をみるためには可視化するのも大変有効だ。

これらのチェックポイントは、慣れればスキップできることもあるが、省略し過ぎると痛い目に会う。

クローニングでは、DNAの量、濃度、比率が大変重要であり、また制限酵素などで切断できたかどうかも極力可視化して確認できたほうが良い。インサートのチェックは、PCRや制限酵素による切断でできる。

培養細胞株は、世界中に出回っているものが多いが、ラボによって形質が全く異なるという話をよく聞く。近年、がん細胞の不均一性が注目されているが、ラボで培養しているうちに、培養条件やコンタミによって形質が変化するのだ。ひどい場合は、取り違えもあるだろう。人間だから。
培養細胞の形質を安定させるためには、マーカー(蛋白、遺伝子など)を確認する簡便な方法があるとよい。Reporter assay, Western, qRT-PCRなどである。この場合、3つ以上の細胞ラインを比較して相対的に評価するしかないだろう。やっかいな話である。
近年、PCR arrayや次世代シーケンサ(Exome解析、RNA-seq)などが発達したため、最先端の実験を行うことがすなわち細胞の形質をチェックすることであったりする。
既報や仮説と異なる結果が出てもデータを闇に葬らずに、勇気を持って発表して欲しい。データはデータとして正しい事実なのだから、既報と違ってもいいし、何かの間違いであってもいいし、あなたのデータこそ正しいのかもしれない。間違いは既報かもしれないし仮説かもしれないのだ。

隣のラボや知り合いからもらわずに理研のCell bankとかATCCから入手したり、メーカーから購入したほうが確実な場合もあるだろう。
iPS細胞のように遺伝子を複数入れたり、極端な条件で実験すれば、もとの細胞に対して、実験群では極端な変化が出るから、質の高いデータが期待できるだろう。その意味では、ポジコンが重要だ。
しかし微妙な差異を検出するのは培養細胞は向かない。そもそも細胞株を使って微妙な差異を検出できても、現代サイエンスの充実したテクノロジーの前では、注目を集める実験データとはなり難い。微妙な差異は、極端に差異の出る実験系を再構築して、極端な差異として示したいところである。

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